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名古屋高等裁判所 昭和51年(行コ)1号 判決 1977年3月28日

名古屋市昭和区御器所一丁目一三番地

控訴人

住田一義

右訴訟代理人弁護士

原田武彦

名古屋市瑞穂区瑞穂町西藤塚一番の四

被控訴人

昭和税務署長 所順一

右指定代理人

前蔵正七

下畑治展

山村二郎

大山義隆

杉村功

右当事者間の課税処分取消請求控訴事件につき、当裁判所は、つぎのとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の申立

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人が控訴人に対し、昭和四一年三月一二日付でなした昭和三七年分ないし昭和三九年分の各所得税更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分(ただし、昭和三八年分については、裁決により一部取消後のもの)をいずれも取り消す。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、主文同旨の判決を求めた。

第二当事者双方の事実上、法律上の主張は、左記のほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決二枚目裏八行目「原告はさらに」とあるつぎに、「同年七月一二日付で」を加え、同一一行目「三八年分」とあるのを「三九年分」と訂正し、同七枚目裏八行目「課税したものである。」のつぎに、「なお、右別表(八)の計算根拠は、当審判決添付の別表No.1ないしNo.14記載のとおりである。」を加える。同三二枚目表番号19の弁済期日「36・4・10」とあるのを「36・4・12」と、三四枚目裏番号31の損害金額「75,310」とあるのを「95,310」と、三六枚目裏番号32の損害金額「51,000」とあるのを「81,000」と、三七枚目表小計「4,763,466」とあるのを「4,713,466」と、四一枚目表昭和三八年分給与所得金額の控除費「五四、二〇〇」とあるのを「五四、二〇二」と、いずれも誤記と認めて各訂正する。)。

一  控訴代理人は、つぎのとおり述べた。

控訴人は、昭和二六年九月一七日東海財務局に貸金業等の取締に関する法律による貸金業届をなし、同日付で受理されている。ゆえに、本件所得は右営業上の収入として事業所得とみるべきところ、回収見込がないか回収不能の貸金元金及びその利息損害金は、いずれも損金として算定されるべきである。

二  被控訴代理人は、つぎのとおり述べた。

控訴人の当審における主張の中、控訴人がその主張どおり貸金業の届出をして受理されたことは認めるが、その余は争う。控訴人の本件貸付行為は、貸金業(昭和二二年勅令第一一〇号旧所得税法旋行規則七条の三第四号)に該当しない。すなわち、控訴人は、昭和二五年二月二四日名古屋市中川区百船町二丁目二三番地に金融業及び不動産業を営む昭和殖産株式会社を設立して自ら代表取締役に就任して会社の経営に当るとともに、昭和三五年三月一六日設立した同市中区古沢町九丁目四一番地の二有限会社一楽(現商号有限会社一楽商事。パチンコ遊技場。)の実質上の経営者でもあるが、右のほかには、自ら金融業を営むための事務所や店舗を設けたり、顧客を求めるための宣伝広告をしたことのないのはもちろん、貸付をなすための費用を必要としたこともないのであつて、事実金融業の届出をしたのみで、金融業の事業活動をしていないのである。控訴人の貸付先は、前記有限会社一楽商事のほか数名の者に特定され、それも知人及びその紹介者に限られ、同社への貸付も無利息であり、本件貸付の資金も、昭和三四年に自己所有の土地家屋の売却代金をもつてなされたものである。以上の状況に照らすと、控訴人の本件貸付は、前記の会社業務にたずさわるかたわら、いわば片手間に行われたにすぎず、広く不特定多数の顧客を相手としてなされたものではないから、貸金業としてなされた貸付には該当しない。

かりに、本件貸付による所得が事業所得に該当するとしても、本件係争年中には、貸付元金及び利息債権が貸倒れとなつた事実はないから、これを事業所得の必要経費に算入すべきであるとする控訴人の主張は理由がない。

第三証拠関係

左記のほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

(一)  控訴代理人は、当審において、甲第八号証を提出し、乙第一三、第一四号証の成立は認めると述べた。

(二)  被控訴代理人は、当審において、乙第一三、第一四号証を提出し、甲第八号証の成立は認めると述べた。

理由

一  当裁判所も、本件について、原判決と同一の事実を認定した上、控訴人の本訴請求を理由なきものと判断する。その理由は、左記に付加するほかは、原判決がその理由中に説示するところと同一であるから、ここにこれを引用する(なお、原判決添付別表(八)有限会社大日工業所に対する利息計算表の計算根拠は、当審判決添付の別表No.1ないしNo.14記載のとおりである。)。

原判決二五枚目裏七行目から九行目にかけて、「証人市川朋生の証言により真正に成立したものと認められる乙第九ないし第一一号証」とあるのを、「証人市川朋生、同嵯峨照夫の各証言により真正に成立したと認められる乙第九号証、証人市川朋生、同伊藤明の各証言により真正に成立したと認められる同第一〇号証、証人伊藤明の証言により真正に成立したと認められる同第一一号証」と訂正し、二六枚目裏七行目「できる。」のつぎに、「また、これを前提とする本件過少申告加算税賦課決定処分も適法である。」を加える。

控訴人は、本件貸付は事業所得の損金であるから、必要経費として所得に算入すべきではない旨主張する。控訴人がその主張のとおり貸金業者として届出をなし、これが受理されていることは当事者間に争いがないところ、成立に争いのない乙第一三、第一四号証によると、控訴人は、昭和二五年二月二四日数名の知人と名古屋市中区金山四丁目六番二六号に金融業及び不動産業等を営む昭和殖産株式会社を設立して自ら代表取締役に就任して会社の経営に当るとともに、同市内に別に設立したパチンコ遊技場を営む有限会社一楽の実質上の経営者であるが、右のほかには、自ら金融業を営むための事務所や店舗を設けたことや、顧客を求めるための宣伝広告をしたことのないことはもちろん、貸付をなすための費用を必要としたこともなく、事実貸金業の届出をしたのみで、その事業活動をせず、昭和三六、七年頃に休業届を出していること、控訴人の貸付先は数名のそれも知人かその紹介者に限られ、本件貸付も前記会社の業務にたずさわるかたわら、いわば片手間になされたにすぎず、広く不特定多数の顧客を相手としてなされたものではないことが認められ、この事実によれば、控訴人のした本件貸付は貸金業の事業としてなしたものとはいいがたいから、控訴人のこの主張は理由がない。

二  以上の理由により、控訴人の請求は理由がないから棄却すべきものであつて、これと同趣旨の原判決は正当であつて、本件控訴は理由がないから棄却すべきものとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法八九条、九五条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長 裁判官 柏木賢吉 裁判官 菅本宣太郎 裁判官 高橋爽一郎)

別表No.1ないしNo.14

本別表は、原審における被控訴人提出の昭和五〇年一〇月二〇日付準備書面添付のものである。

有限会社大日工業所にかかる利息及び損害金計算明細表

番号 <1> 貸付年月日 昭和36年4月26日

貸付先氏名 有限会社 大日工業所 <2> 貸付元本 370,000円

No.1

<省略>

<3> 約定利率 年利 % 月利 6%

<4> 利息制限法上の法定最高限度利率(遅延損害金を含む)年36%

No.1

<省略>

番号 <1> 貸付年月日 昭和36年4月26日

貸付先氏名 有限会社 大日工業所 <2> 貸付元本 160,000円

No.2

<省略>

<3> 約定利率 年利 % 月利 6%

<4> 利息制限法上の法定最高限度利率(遅延損害金を含む)年36%

No.2

<省略>

番号 <1> 貸付年月日 昭和37年3月20日

貸付先氏名 有限会社 大日工業所 <2> 貸付元本 100,000円

No.3

<省略>

<3> 約定利率 年利 % 月利 6%

<4> 利息制限法上の法定最高限度利率(遅延損害金を含む)年36%

No.3

<省略>

番号 <1> 貸付年月日 昭和38年3月25日

貸付先氏名 有限会社 大日工業所 <2> 貸付元本 206,000円

No.4

<省略>

<3> 約定利率 年利 % 月利 6%

<4> 利息制限法上の法定最高限度利率(遅延損害金を含む)年36%

No.4

<省略>

番号 <1> 貸付年月日 昭和38年6月17日

貸付先氏名 有限会社 大日工業所 <2> 貸付元本 100,000円

No.5

<省略>

<3> 約定利率 年利 % 月利 6%

<4> 利息制限法上の法定最高限度利率(遅延損害金を含む)年36%

No.5

<省略>

番号 <1> 貸付年月日 昭和38年12月4日

貸付先氏名 有限会社 大日工業所 <2> 貸付元本 150,000円

No.6

<省略>

<3> 約定利率 年利 % 月利 6%

<4> 利息制限法上の法定最高限度利率(遅延損害金を含む)年36%

No.6

<省略>

番号 <1> 貸付年月日 昭和38年12月4日

貸付先氏名 有限会社 大日工業所 <2> 貸付元本 55,000円

No.7

<省略>

<3> 約定利率 年利 % 月利 6%

<4> 利息制限法上の法定最高限度利率(遅延損害金を含む)年40%

No.7

<省略>

番号 <1> 貸付年月日 昭和38年12月4日

貸付先氏名 有限会社 大日工業所 <2> 貸付元本 150,000円

No.8

<省略>

<3> 約定利率 年利 % 月利 6%

<4> 利息制限法上の法定最高限度利率(遅延損害金を含む)年36%

No.8

<省略>

番号 <1> 貸付年月日 昭和38年12月4日

貸付先氏名 有限会社 大日工業所 <2> 貸付元本 100,000円

No.9

<省略>

<3> 約定利率 年利 % 月利 6%

<4> 利息制限法上の法定最高限度利率(遅延損害金を含む)年36%

No.9

<省略>

番号 <1> 貸付年月日 昭和38年12月4日

貸付先氏名 有限会社 大日工業所 <2> 貸付元本 100,000円

No.10

<省略>

<3> 約定利率 年利 % 月利 6%

<4> 利息制限法上の法定最高限度利率(遅延損害金を含む)年36%

No.10

<省略>

番号 <1> 貸付年月日 昭和38年12月4日

貸付先氏名 有限会社 大日工業所 <2> 貸付元本 300,000円

No.11

<省略>

<3> 約定利率 年利 % 月利 6%

<4> 利息制限法上の法定最高限度利率(遅延損害金を含む)年36%

No.11

<省略>

番号 <1> 貸付年月日 昭和38年12月4日

貸付先氏名 有限会社 大日工業所 <2> 貸付元本 100,000円

No.12

<省略>

<3> 約定利率 年利 % 月利 6%

<4> 利息制限法上の法定最高限度利率(遅延損害金を含む)年36%

No.12

<省略>

番号 <1> 貸付年月日 昭和39年1月7日

貸付先氏名 有限会社 大日工業所 <2> 貸付元本 300,000円

No.13

<省略>

<3> 約定利率 年利 % 月利 6%

<4> 利息制限法上の法定最高限度利率(遅延損害金を含む)年36%

No.13

<省略>

番号 <1> 貸付年月日 昭和39年1月16日

貸付先氏名 有限会社 大日工業所 <2> 貸付元本 395,000円

No.14

<省略>

<3> 約定利率 年利 % 月利 6%

<4> 利息制限法上の法定最高限度利率(遅延損害金を含む)年36%

No.14

<省略>

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